FRET顕微鏡法の基本

Read in English

Fundamental Principles of Förster Resonance Energy Transfer (FRET) Microscopy with Fluorescent Proteins

生体細胞では、タンパク質の間に起こる動的な相互作用が、多くのシグナル伝達の経路を制御する上で重要な役割を果たしており、同時にこれが、広範に渡るその他の重要なプロセスにも貢献していると考えられています。過去において、このような相互作用のメカニズムを解明するための古典的な生化学的アプローチがどこでも試みられましたが、自然の細胞環境では、弱い相互作用、つまり一過的な相互作用しか起こらず、そのためにこの相互作用は通常、このような古典的な技法では見ることができません。たとえば、免疫蛍光顕微鏡法を使用して、固定した細胞内で疑わしいタンパク質パートナーを共局在させるという技法は、その場所で相互作用を検査するための一般的な方法であり、この技法に基づいた数々の研究論文も提出されています。しかし、蛍光顕微鏡の分解能が、典型的なタンパク質のサイズより数百倍も小さいことから、共局在がしばしば疑わしい結果をもたらすことになります。言って見れば、蛍光顕微鏡法を使って、大講義室に2人の学生がいるという知識が得られるかというような問題なのです。蛍光顕微鏡には、学生が同じ教室にいるかどうか、さらに言えば、彼らが隣の席についているかどうかを判定する上で必要な分解能はないのです。

図1 - 蛍光共鳴エネルギー移動のヤブロンスキー図

典型的な蛍光顕微鏡技法は、ある波長の光の蛍光分子を吸収(励起)し、その後、それより長い波長の2番目の蛍光を放出するという方法で行います。励起波長と発光波長は、多くの場合、互いに数百ナノメートル離れています。核、ミトコンドリア、細胞骨格、ゴルジ体、膜などの細胞成分に対し、特定の蛍光分子で標識をつけると、固定標本および生体標本内で局在を確認できるようになります。異なる励起スペクトルと放出スペクトルを持つ個別の蛍光分子で複数の細胞内構造に同時に標識をつけると、専用の蛍光フィルターを組み合わせて使用することで、単一の細胞や組織切片内に存在する、標識を付けた分子の近接性を調べられるようになります。この技法を使用すると、光学的な解像限界よりも近い距離にある分子同士は同じところに存在するように見えます(共局在しているとも言われます)。このように、空間的に近い位置にあるように見える場合、分子会合の可能性があることを示しています。ただしほとんどの場合、通常の回折限界を持つ蛍光顕微鏡では、生体分子の間の相互作用が実際に起こっているかどうか判定するには分解能が不十分です。

共局在の測定は、たとえば、多くの受容体複合体の内在化で利用されるクラスリン被覆ピットなど、多くの信号経路で同じ細胞構造が使用されていることを考えた場合、良くても示唆的、悪ければ誤解を招くものになります。2つの分子またはタンパク質が実際に隣接しており、近隣に存在しているだけではないという知識は、その相互作用の可能性を判断する上で、はるかに信頼性が高い材料になります。昔から使われている電子顕微鏡法では、高精度の局在認識を実現できる優れた分解能はありますが、信頼性の高い結果をもたらすだけの正確な標識付けの方法を単純に欠いています。しかも、固定細胞内の使用に適した多くの共局在技法が一般的に適用されており、このために、生体細胞のアッセイで利用されるような、きわめて理想的な動的測定法が利用できなくなります。マルチカラー蛍光タンパク質を使った蛍光イメージングでは、一過的な相互作用のアッセイで必要になる、生体細胞の実験をすぐに行うことができますが、このアプローチは、空間分解能が比較的低く、約200ナノメートルに限定されるという欠点があります。

タンパク質分子の空間的近接性の判定における制約は、フェルスター(または蛍光)共鳴エネルギー移動(FRET)顕微鏡技法を利用することによって、克服することができます。FRETは、適切に配置された2つの蛍光分子の距離が8〜10ナノメートル以下のときに、その2つの蛍光分子の間で発生します。このため、FRETは、それぞれの間の距離が数ナノメートル以下しかない2つの分子間で発生するタンパク質間相互作用の研究に非常に適しています。過去10年間、FRETアプローチはどんどん広まってきました。これは、緑色蛍光タンパク質(GFP)やその変異誘導体との融合を使用することにより、特定タンパク質およびペプチドを遺伝子的にターゲッティングする必要のある用途が増加してきたためです。2つの明確に異なるスペクトルを持つ蛍光タンパク質の間のFRET(FP-FRETとして知られるもの)が、以下に挙げる2つの明確に異なる実験技法において、広く利用されてきました。図1に示しているのは、FRETにおけるドナーの発光とアクセプターの吸収の間の連動励起状態遷移を示したヤブロンスキーのエネルギー状態図です。吸収および発光の遷移は、まっすぐの垂直矢印(青、緑、赤)で示しており、振動緩和は、波線の黄色の矢印で示しています。連動遷移は点線で描いており、これは、光子で媒介された電子遷移によって発生しているため、ヤブロンスキー図でこのように配置しています。ドナー蛍光分子は、適切なアクセプターが存在している状態であれば、光子を放出させないまま、直接アクセプターに励起状態エネルギーを移動させることができます(図1の紫の矢印で示したもの)。これによって生成する蛍光増感発光は、アクセプターの放出スペクトルと似た特性を持つことになります。

生体細胞でのFRET研究を広範囲に実装する上での主な障害の1つは、特定の細胞内タンパク質に適切な蛍光分子で標識を付ける適切な方法がないことでした。広範囲のスペクトルプロファイルを持つ蛍光タンパク質が近年開発されると同時に、キメラタンパク質(バイオセンサーや融合)の改良も進んだことから、FRET実験で利用できる可能性がある蛍光タンパク質のペアも増加しました。蛍光タンパク質をFRETに適用する場合、選択したペアの蛍光タンパク質をバイオセンサー(単一の遺伝子的にコード化された構築物)に挿入するか、異なる蛍光タンパク質に個別に融合する2つの別々のタンパク質で分子間測定を実施します。後者のアプローチは、受容体のオリゴマー化を含む、さまざまなタンパク質間相互作用をイメージングし、転写因子の機能を解明する際に採用されています。ただし、独力で発現させたキメラタンパク質でFRETアッセイを実施する方法は、生体細胞内で個別の蛍光物質が発現するときに不可避的に生じる化学量論の変動のために、難しさがはるかに増します。このような難しさはありますが、この種の実験を行うときに、適切にコントロールを行い、厳密な精度で研究を実施すれば、有益な結果が生み出されます。

蛍光タンパク質バイオセンサー

蛍光タンパク質バイオセンサーについては、多様な細胞内プロセスの研究において、広範な利用方法が見つかっています。科学者たちは、生理学的シグナル伝達のさまざまな面で重要な役割を果たす生体高分子に、蛍光タンパク質のペアを創造的に融合することによって、カルシウム波の誘導、環状ヌクレオチドのメッセンジャー効果、pHの変化、膜電位の変動、リン酸化反応、細胞内プロテアーゼの作用など、重要なプロセスをライブセルイメージングするときに利用できる数多くの有用な新しい分子プローブを開発しました。バイオセンサー創成の代替となる、きわめて有用なストラテジーとして、蛍光タンパク質バックボーン構造自体を改変する方法があり、この方法では、ペプチドをin vivoで結合した個別の単位に分割し蛍光を生成するように(二分子蛍光補完法〈BiFC〉と呼ばれる技法)変えたり、天然アミノ末端およびカルボキシ末端を結合して、センサーペプチドの分子内に挿入部位を設けたりします。

最初の蛍光タンパク質バイオセンサーは、タンパク質、カルモジュリンとミオシン軽鎖キナーゼ(M13ドメイン)のカルシウムカルモジュリン結合ドメインを、改良型青色および緑色蛍光タンパク質(EBFPおよびEGFP)の間に挟んで創成した、Cameleonという名前のカルシウムインジケーターです。細胞内のカルシウムレベルが増加すると、M13ドメインがカルモジュリンペプチドと結合して、蛍光タンパク質の間にあるFRETが増加します。残念ながらこのセンサーは、ダイナミックレンジが非常に低いこと(蛍光で1.6倍の増加)がネックになって、EBFPの輝度と光安定性を欠いていたために、画像化に利用することが困難でした。同じテンプレートを使用した改良型バージョンでは、青緑色バリアントECFPと黄色バリアントEYFPを含むことからシグナルレベルが向上しています。その後、蛍光タンパク質バックボーンの7番目のβストランドの最初にカルシウム感度の高いペプチドを挿入して生成されたYFP誘導体(Camgaroosと呼ばれる)では、さらに良い結果が出ています。この異例の位置に配置されたセンサーペプチドは、高レベルの蛍光を維持するという点で、きわめて耐性が高くなっています。ただし、別のストラテジーでは、蛍光タンパク質で一般的な独特のバレル構造の利点を利用して、天然のN末端およびC末端をリンクし、この構造の中心領域内のいくつかの位置の1つに新しい開始コドンを(通常ループで)作成することによって、タンパク質の末端を再構成しています。この構造的に改変した誘導体は、循環置換蛍光タンパク質と呼ばれるもので、カルモジュリンとM13に融合させることによって、優れたカルシウムバイオセンサーを作り出すことができます。

図2 - プロテアーゼ活性のための蛍光タンパク質FRETバイオセンサー

カルシウムバイオセンサーに先行するものとして、pH、リン酸化反応、プロテアーゼ活性などに対する遺伝子インジケーターがありましました。蛍光タンパク質をpHのセンサーとして適用するときは、2つの一般的なアプローチを使用することができます。1つ目は、EGFP(pKa = 5.9)およびEYFP(pKa = 6.5)が酸性環境に対して高い蛍光感度を持ち、ECFP(pKa = 4.7)やDsRed(pKa = 4.5)などの他のタンパク質が比較的弱い感度しか持たない特性を利用するというものです。EGFPやEYFPを比較的低い感度の蛍光タンパク質と融合させることによって、細胞内コンパートメントの酸性度の測定に使用できるレシオメトリックなプローブを作り出すことができます。2つ目のアプローチは、天然(野生型)のGFP をプロトン化し、天然タンパク質の二峰性のスペクトルプロファイルをシフトさせるというものです。pHluorinsという名前のプローブのクラスは、wtGFPに由来するもので、pHが減ると、励起ピークが470ナノメートルから410ナノメートルにシフトします。また、緑色と青色のスペクトル領域にピークを持つ、二波長発光のpHセンサーも開発されました。キナーゼ活性をリアルタイムに報告することはできませんが、リン酸化反応バイオセンサーは、特定のキナーゼに由来するリン酸化反応モチーフを含むペプチドと、2つのFRET対応蛍光タンパク質で挟まれたリン酸化ペプチドの結合ドメインによって構成されています。バイオセンサーがキナーゼによってリン酸化すると、リン酸化ペプチド結合ドメインが、リン酸化された配列に結合して、FRETを始動または破壊します。この単純なストラテジーが、堅牢で高度に特異的なバイオセンサーを生み出すことがわかっています。他の多くのバイオセンサーと同じように、主要な欠点は、ダイナミックレンジが狭いことです。

おそらく、新しいFRETペアまたは改善されたFRETペアをスクリーニングするためにもっとも広く使用されているバイオセンサー設計には、プロテアーゼ切断アッセイが含まれます(図2を参照)。この単純なモチーフには、コンセンサスプロテアーゼ切断部位を含む、短いペプチドで結合した2つの蛍光タンパク質が含まれます。一般的に、このセンサーは、非常に強いエネルギー移動を生じさせますが、これはリンカー配列の切断時に完全に消失します。この技法は通常、高いダイナミックレンジを特徴としているため、新しい青緑色および緑色FRETドナーと黄色、橙色、赤色のアクセプターをスクリーニングするときに使用することができます。プロテアーゼバイオセンサーの最大のファミリーには、プロテアーゼのカスパーゼファミリーの1つに対して感度が高い切断部位が含まれており、これによって、アポトーシスの誘導の際にセンサーを検査できるようになっています。過去数年間、増感した蛍光タンパク質とFRETペアの両方を使用した新しいバイオセンサーが多数報告されています。ECFPおよびEYFP誘導体を使用したFRETセンサーには、ダイナミックレンジの制約が依然としてありますが、おそらくレシオメトリックの測定が簡単でしかもプローブの構築が容易であることから、このストラテジーは広く採用されています。蛍光タンパク質の組み合わせがさらに進化すると、それを利用することにより、使い勝手が良いこのプローブのクラスで、ダイナミックレンジなどの特性を向上させた新しいストラテジーが現れることは間違いありません。

FRETの基本原理

FRETの基本的なメカニズムにおいては、励起状態におけるドナー蛍光分子が、長距離双極子相互作用を通じて、無放射の状態でその励起エネルギーを付近のアクセプター蛍光分子(または発色団)に移動させます。エネルギー移動を裏付けるこの理論は、励起された蛍光分子を振動双極子として扱い、その振動双極子が、同様の共鳴周波数を持つ2番目の双極子との間でエネルギー交換を行うことができるとする概念に基づいたものです。この点において、共鳴エネルギー移動は、同じ周波数で振動する1組の音叉や無線アンテナなどのような、発振器の組み合わせの動作によく似ています。対照的に、放射エネルギー移動では、光子の放出と再吸収が必要になり、容器の形状や波面の経路などに加え、標本の物理的な寸法や光学特性によっても影響を受けます。共鳴エネルギー移動は、放射メカニズムと異なり、ドナー-アクセプターペアに関する大量の構造情報をもたらすことができます。

共鳴エネルギー移動は、蛍光分子の周囲の溶媒シェルに対する感度が高くないため、これによって、蛍光クエンチング、励起状態反応、溶媒緩和、異方性測定など、溶媒の影響がある事象で明らかになるような事例に関する固有の分子情報がもたらされます。蛍光分子に対する溶媒の主な影響で、共鳴エネルギー移動に関連するものとしては、ドナーおよびアクセプターのスペクトル特性に対する影響が挙げられます。短距離の溶媒効果よりもはるかに長い距離で、無放射エネルギー移動が発生しますが、関連する蛍光分子の間にある成分(溶媒および高分子化合物)の誘電性は、エネルギー移動の効果にほとんど影響せず、この効率は、主としてドナーおよびアクセプター蛍光分子の間の距離によって決まります。

図3 - FRETにおけるフェルスター距離および配向因子の変数

FRETの現象は、光子の放出で仲介されることはなく、さらにアクセプターの発色団が蛍光である必要さえありません。ただし、ほとんどの用途ではドナーおよびアクセプターの両方が蛍光であり、エネルギー移動の発生は、アクセプター蛍光放出の増加に加え、ドナー蛍光のクエンチングや蛍光寿命の低減によって明らかにされます。共鳴エネルギー移動の理論は元々、テオドール・フェルスターによって確立されたもので、彼の功績を称えて、近年ではその名前が付けられています。このフェルスターの理論では、FRET効率(E)は、2つの分子間の距離(rで示されている値)の6乗に反比例します。

Formula 1 - FRET Efficiency

EFRET = 1/[1 + (r/R0)6]

ただし、R(0)は、FRET効率が50%のときの特徴的な距離で、蛍光分子の任意のペアについて計算できるものです(この変数はフェルスター距離とも呼ばれるもので、これについては、後で詳細に説明します)。理論上の蛍光分子ペア(改良型青緑色および黄色蛍光タンパク質)のFRET効率を、図3(a)で示します。この値は、2つの分子間の距離(r)の6乗の反比例値になることから、この曲線では急激な低下が見られます。R(0)以上の距離では、効率がゼロに急激に近づいていますが、R(0)以下の距離では、FRET効率は極大に近づきます。図3(a)では、FRETの測定に適した範囲を、赤い網色の領域で示しており、あわせて、0.5の制限と1.5 x R(0)も示しています。FRETは、R(0)に近い距離では、分子定規として効果的に使用することができ、実際、構造生物学では、FRETが、精密分光アプローチを使用して、このような目的で採用されています。ただし、細胞生物学のほとんどの用途では、FRETの実験は、実現可能なS/N比のために、二値的な読み取り値に制約されてしまいます。実際、測定値は多くの場合、高FRET低FRETの区別、FRETの存在と不在の区別にしか使用できません。

すでに述べたように、R(0)は、蛍光分子の任意のペアに対して簡単に計算することができます。水溶液(または緩衝液)のR(0)の値は、確立された入力パラメータを利用することで、非常に簡単な式から算出することができます。

Formula 2 - R(0)

R0 = [2.8 x 1017 × Κ2 × QD × ΕA × J(λ)]1/6 ナノメートル

ただし、この式のΚ(2)つまりカッパは、2つの蛍光分子双極子の配向因子(配向因子の計算で使用する角度の概略については図3(b)を参照)、Q(D)はドナーの量子収率、Ε(A)は最大アクセプター吸光係数(センチ当たりのモルの逆数単位)、J(λ)は、正規化されたドナー蛍光、F(D)(λ)とアクセプター励起スペクトル、E(A)(λ)のスペクトル重なり積分(図4を参照)を示しています。

Formula 3 - J(λ)

J(λ) =FD(λ) × ΕA(λ)×λ4dλ

数式は複雑に見えるかも知れませんが、パラメータのほとんどは、論文においてすぐに見つかるような定数です。さらに説明が必要になるもっとも重要な2つの項は、Κ(2)J(λ)、つまり重なり積分です。配向角変数(Κ(2))は単に、FRETの組み合わせが、無線アンテナの方向が受信性能に影響するのとまったく同じ方法で、2つの蛍光分子間の角度によって決まるということを示しています。ドナーおよびアクセプターが互いに対して平行に揃っているとき、FRET効率は、それぞれが垂直に向いているときよりも高くなります。この整列の度合いによってΚ(2)が決まります。Κ(2)は0から4の間の値で、通常は、すべての角度全体の平均値、2/3が想定されています。ほとんどの現実的な状況において、Κ(2)は2/3に近くなり、通常、研究者がこの値を調整できる要素は一切ありません(ただし一部の研究者は厳格に、蛍光タンパク質をターゲットタンパク質に添加して、劇的な効果を出そうとしています)。重なり積分、J(λ)は、図4で示している、2つのスペクトルが重なった領域です。FRETに影響するその他のパラメータには、ドナーの量子収率とアクセプターの吸光係数があります。このため、FRETシグナルを最大にするためには、量子収率がもっとも高いドナー、もっとも高い吸収アクセプター、スペクトルプロファイルで大きな重なりを持つ蛍光分子を選択しなければなりません。この理論は、実験によって繰り返し検証されているもので、整列していない蛍光プローブでFRETを最大化するためのメカニズムは他にありません。

図4 - 励起および発光のスペクトル重なり積分

上記で紹介したそれぞれのパラメータがフェルスター距離の計算に影響を及ぼすのは、わずか6乗の単位であるということに留意する必要があります。このため、ドナーの量子収率を倍にしても、R(0)は12.5%しか変動しません。FRETイメージングで使用されるほとんどすべての蛍光分子は量子収率(0.5以上)と吸光係数(50,000以上)が高いため、フェルスター距離値の範囲は4〜6ナノメートルの間に制約され、ほとんどのFRETペアに対するR(0)の平均値があり、5ナノメートルになっています。FRET効率は、蛍光分子の相対的な配向同様、FRETペアを分けている距離に依存しているため、FRETは、2つのタンパク質の親和力の変化、またはその結合構造の変化によって生じたタンパク質間相互作用の変化を検出する目的で使用することができます。繰り返しになりますが、細胞生物学におけるほとんどのFRETイメージング用途において、実験では一般的に、2つの状態(FRETの存在とFRETの不在)のみが区別されるため、観察されたFRETの変化について分子的な解釈を行うには、さらに追加の情報が必要になります。

FRETの測定に影響する要因

実際には、広範囲の問題によって、FRETの測定が複雑になったり困難になったりすることがあり、最終的に曖昧な結果が出たり無意味な結果になったりすることもあります。主な問題として、ドナーおよびアクセプター蛍光分子を同時にイメージングするとき、両方の輝度レベルが著しく異なる場合が考えられます。理論上、この差異は問題になりませんが、実際には、ほとんどの機器で限られたダイナミックレンジでしか測定できないため、二重蛍光分子イメージングであるにもかかわらず、(明るい方の蛍光分子で)飽和した1つのチャンネルだけになり、他のチャンネルは(暗い方の蛍光分子で)システムノイズに支配されてしまうということが起こり得ます。このため、可能であれば、同等の輝度を持つドナーとアクセプターを使用するのがベストです。

FRETの検出を困難にするその他の要因として、ドナー対アクセプターの化学量論が、10:1から1:10の範囲に入っていない状況があります。タンパク質間相互作用のFRET測定の際に、一方のパートナーの濃度が異常に高い場合は、この要因によって、大きな制約が生じる可能性があります。第一の問題は、FRETの対象でない蛍光標識の背景が存在する状況で、小さいレベルのFRETを測定するような場合に発生します。実際にはこの状況を改善する方法が存在していないために、この分類に入ってしまう可能性があるタンパク質間相互作用の実験は、単純にFRET技法に適していません。上記で述べたような、単一のドナーおよびアクセプターのみで構成されている蛍光タンパク質バイオセンサーの場合、化学量論が固定されており、1:1になることが保証されているため、このような問題は起こり得ず、バイオセンサーの濃度にかかわらず、シグナルレベルが一定になります。

スペクトルが重なる蛍光分子間の漏れ込み(またクロストークやクロスオーバーとも呼びます)や交差励起の存在も、FRET研究を阻害する可能性がある重要な問題になります(図5を参照)。場合によっては、ドナーを励起させるために選択した波長領域の光によって、アクセプターが直接励起されることもあります(図5(a))。さらに、特にドナーおよびアクセプターの放出スペクトルプロファイルに大きな重なりがある場合など、ドナーからの蛍光が、アクセプターの蛍光の検出チャンネルに漏れ出す可能性もあります(図5(b))。これらの2つのクロストークは、有機蛍光分子の光物理学が原因で生じており、どのようなFRETペアでも存在する可能性が非常に高いため、FRETの測定のときに対応しなければなりません。スペクトルがしっかり分離している蛍光分子を選択することが、クロストークを減らすための優れたメカニズムになります。ただし、ほとんどの場合、スペクトルの分離が増すと、重なり積分(J(λ))も減少するため、実際には、FRETシグナルを検出する能力も低下することになります。

最後に、2つの蛍光分子が正しく整列していない場合(たとえば、Κ(2)がゼロに近い値の場合など)や、フェルスター距離の範囲内に単純に入っていない(6ナノメートル以上の)場合に、FRETシグナルのレベルが低下することがあります。たとえば、標識を付けた2つのタンパク質が相互作用するにもかかわらず、蛍光標識が複合体の逆側にあるような場合、当該タンパク質が結合していたとしても、検出可能なFRETシグナルが存在しないかも知れません。一般的な用例では、この種の偽陰性は、特に蛍光タンパク質FRETパートナーできわめてよく起こります。多くの場合、信頼性の高い十分なFRETシグナルを検出するには、それ以前に、複数の標識付けストラテジーが必要になります。ただし、これまでに記述したそれぞれの問題は、情報が十分与えられている蛍光分子ペアを選択した上でベクター構築物を作ったり合成標識実験を行ったりすることによって、(あるいは部分的に)軽減することができます。

図5 - CFP-YFP FRETペアでのスペクトルの漏れ込み(クロストーク)

図5で示しているのは、ECFPとmVenusの励起および放出スペクトルプロファイルが重なっている状況です。なおこの蛍光タンパク質のペアは、現在、FRET研究でもっとも優れた組み合わせの1つです。この2つのタンパク質は、励起(図5(a))および発光(図5(b))の両方のスペクトルで大きく重なっています。FRETアクセプター(mVenus、赤の曲線)の直接励起は、黄色タンパク質の吸光係数が青緑色タンパク質よりも高いことから、ドナー(ECFP、青緑の曲線またはmCerulean、青の曲線)の励起で使用される波長によっては、大きくなる可能性があります。この重なりは、ドナーとしてECFPが使用され、mCeruleanなどのような、高い吸光係数を持つCFPバリアントを使用することによって部分的にそれを相殺できるような場合に、特に問題になります。ただし、図5(a)の励起曲線は、黄色タンパク質と青緑色タンパク質の吸光係数の差を反映させるために拡大して描いています。458ナノメートルでの励起により、mVenusの励起クロストークが405ナノメートルまたは440ナノメートルでの励起よりもはるかに高いレベルになります。ECFPの蛍光放出スペクトルが広いことから(図5(b))、mVenusの発光領域全体でかなり強い重なりが見られます。

細胞生物学用途で利用するFRET技法

蛍光タンパク質バイオセンサーを採用している研究者、または融合した蛍光プローブの化学量論を、別の相互作用ターゲットと一致させようとしている研究者は、特定の実験のための方法を確立するために、できるかぎり多くのFRET解析技法を使用すべきです。このような努力が必要になるのは、それぞれの蛍光タンパク質FRETペアが明確に異なる病理を示すことから、その使用法が複雑化するためであり、同時に、ほとんどのFRETアッセイで生じる比較的小さなシグナル差を測定するための光学顕微鏡パラメータについても、はっきりと理解しておく必要もあります。このようなシステムと、そこから導き出される結果がいったん確立されると、それ以降の手順では、きわめて簡単なアプローチを取れるようになります。FRETのイメージングのために開発された技法はきわめて多岐に渡ります。一般的に、FRETを測定するための既存のすべてのストラテジーは、蛍光タンパク質実験にも適用できますが、現実的な考え方に基づけば、次の5つの一般的なアプローチが特に有用と言えます。

  • 感度補正発光 - 励起および発光クロストークを補正するためのアルゴリズムを使用した、2チャンネルのイメージング。
  • アクセプターフォトブリーチング - この技法は、ドナーデクエンチングという名前でも知られており、アクセプターがフォトブリーチングされたとき、増加しているドナー発光を測定します。
  • 蛍光寿命イメージング顕微鏡法(FLIM)- 蛍光タンパク質(またはその他の蛍光分子)ドナーの寿命変化の測定。
  • スペクトルイメージング - 1つまたは2つの波長で励起し、ドナーおよびアクセプターの完全なスペクトルプロファイルを測定します。
  • 蛍光偏光イメージング - 励起と平行な偏光および垂直な偏光を、高いS/N比で測定します。

ここで紹介したFRETアプローチには、それぞれ長所と短所があります。たとえば、2チャンネルのイメージングは、もっとも簡単な方法ではありますが、もっとも複雑なコントロールセットが必要になります。一方で、FLIMについては、FRET効率の明確な測定が可能になり、ニコンA1 HD25/A1R HD25共焦点システムに統合できる機器もあります。

感度補正発光

感度補正発光は、一般に2色レシオイメージングとも呼ばれ、おそらく、FRETイメージングのもっとも簡単な方法と言えます。ドナー蛍光分子が(広視野顕微鏡または共焦点顕微鏡で)特定の波長で励起されて、その信号が、ドナー蛍光およびアクセプター蛍光に対して選択された発光フィルターを通して集められます。2つの蛍光分子の励起と蛍光の間にクロストークがないのであれば(現実的ではありませんが)、感度補正発光は完璧な方法になります。ですが、蛍光タンパク質の間のクロストークは大きな問題になり、通常、FRETの存在や不在を確立するために、広範なコントロール手法が必要になります。そのため、このアプローチで、定量的に正確なFRETデータを獲得することは困難になります。感度補正発光は、多くの研究施設で利用されている広視野蛍光顕微鏡において、比較的簡単に構成することができますが、必要なコントロール手法においても、クロストーク成分を減らすためにかなりのイメージ処理を行わなければならず、その結果、ノイズレベルが増加し、測定の不確実性も増します。

感度補正発光FRETイメージングでは、さまざまな矯正手段が開発されてきました。基本的な概念は、複数の試料(ドナーのみを含むもの、アクセプターのみを含むもの、ドナーとアクセプターの両方を含む想定上のFRET試料など)に対して、さまざまな組み合わせのフィルターを使用するというものです。これらの試料から明らかになった発光の値により、励起と発光の両方のチャンネルに対して、想定されるクロストークの量を判定できるため、それをFRETの測定値から減算すれば良いということになります。理論上、このアプローチはうまく機能するように見えますが、残念ながら、イメージ処理が必要になることから、すべてのイメージにおいてノイズレベルが増加します。このため、FRETシグナルが小さい場合、このアプローチを使用してFRETを測定することはできません。

図6 - 感度補正発光およびアクセプターフォトブリーチングでのFRET

このような難しさはありますが、増感発光測定では、両方のイメージを同時に取得できるため、FRETシグナルが大きい短時間の動的実験では有用になることがあります。増感発光は、FRETのダイナミックレンジが大きく、ドナーおよびアクセプターの化学量論が1:1の割合に固定されているという条件下で、蛍光タンパク質バイオセンサーを検査しているときに、特に魅力的な技法になります。その良い例は、図2で示したプロテアーゼバイオセンサーです。このキメラは、高いFRET効率を持つよう加工されていますが、ペプチドリンカーが酵素で切断されると、そのFRET効率が原則的に0にまで落ちるようになっています。その結果、大きいと同時に簡単に測定できるFRETの変化が実現し、しかも、これにより、所定の時間と生体細胞内の所定の領域で特定のプロテアーゼ活性を示すことができるようになっています。

アクセプターフォトブリーチング

こちらは単一の測定のみに限定されますが、アクセプターフォトブリーチング(またはドナーデクエンチング)も簡単な技法で、多くの場合素晴らしい結果を出すことができます。この技法の基本的な概念は、FRETの間、ドナー蛍光エネルギーがアクセプターに送られるために、ドナー蛍光が消光していくという事実を利用したものです。アクセプター蛍光分子がフォトブリーチングされると、クエンチング効果が不可逆的に消えていき、ドナー蛍光のレベルが増大します。蛍光分子の間でFRETが発生している場合、アクセプターが除去されると、ドナー蛍光は増加します。一般的に、アクセプターフォトブリーチングによってドナー蛍光が劣化しないようにすると同時に、アクセプターが初期値の約10%までフォトブリーチングされるようにすることが重要です。この両方の制約については、共焦点レーザー顕微鏡で容易に対応できますが、特殊な照明システムを搭載した広視野顕微鏡またはスピニングディスク顕微鏡でも対応することができます。

アクセプターフォトブリーチング技法は、非常に簡単でありながら定量的であり、単一の試料のみを使用して実行できるという利点があります。FRET効率は、アクセプターのフォトブリーチング後のドナーの輝度から、アクセプターが存在する状況でのドナーの輝度を引き、この値をブリーチング後のドナーの輝度に合わせて正規化することによって算出することができます。主な欠点としては、アクセプターフォトブリーチングが破壊的であり、細胞当たり1回しか使用できないために、その用途が、動的測定法と関係ない実験のみに限られるという点です。さらに、フォトブリーチングが比較的遅いプロセスであるため、多くの場合数分以上かかるという点も難点として挙げられます。とは言うものの、アクセプターフォトブリーチング測定はほとんどの場合、FRETのアッセイにどのような方法を使用していたとしても、実験の最後に実行する価値はあります。

図6で示しているのは、感度補正発光およびアクセプターフォトブリーチングでのFRETアッセイの例で、ライブセルイメージングを使用したものです。図6(a)は、Cameleonバイオセンサーを発現したヒト子宮頸癌上皮細胞(HeLa株)で、このバイオセンサーは、カルモジュリンおよびM13ドメイン(すでに説明したもの)を間に含む、カルシウム感度の高いペプチドに融合したmCeruleanおよびmVenusで構成されています。カルシウム誘発剤(イオノマイシン)を加える前に、440ナノメートルの照射による細胞の励起によって青緑色蛍光が生じており、青緑色蛍光タンパク質と黄色蛍光タンパク質の間にFRETがないことを示しています(図6(a))。イオノマイシンを追加すると、タイムラプス2色レシオイメージング(増感発光)によって、バイオセンサーが蛍光タンパク質の間のFRETレベルの増加に反応するために、細胞質を通過したカルシウム波が記録されます(図6(b)および図6(c)、FRETは黄赤色の擬似カラーになっています)。図6(d)〜(f)で示しているのは、アフリカミドリザルの腎細胞(COS-7株)に合成シアニン色素、Cy3(図6(d)、緑色)およびCy5(図6(e)、赤色)で標識を付けて、コレラ毒素のBサブユニットと結合させ、原形質膜をターゲットにしたものです。膜内では、2つの色素が近接しているため、高いレベルのFRETが生成されています。ドナーチャンネルのみで表示すると、細胞の選択領域(図6(e)の白いボックス)におけるCy5のフォトブリーチングによって、対応する領域のドナーデクエンチングが増加(図6(f)での緑色蛍光の増加)していることがわかります。

蛍光寿命イメージング顕微鏡法(FLIM)

寿命測定は、FRETの判定の方法としては、他の技法よりもはるかに厳密な方法です。しかも、ドナー蛍光のみをモニターすることから、クロストークアーチファクトの影響を受けにくくなっています。すべての蛍光分子は、ナノ秒単位で蛍光が指数関数的に減衰し、この減衰の速さは、蛍光を消光させる環境要因によって大きな影響を受けます。このため、FLIMの基本的な概念は、ある程度アクセプターフォトブリーチングに関連したものになります。ドナー蛍光は、FRETの相互作用によって消光し、クエンチングの量は、FRETが存在する場合のドナーの蛍光減衰時間の低下を測定することによって判定することができます。FLIMでは、このような方法によって、FRET効率の明確な値がわかります。FLIM-FRETを組み合わせた測定の利点として、直接的なアクセプター励起アーチファクトに対する感度が低いという点があり、他にも、蛍光ドナーを、それ自身蛍光を発しないアクセプターと組み合わせられるという点もあります。この両方の側面があるために、研究者が利用できる有用な蛍光タンパク質FRETペアの数が拡大することになります。

図7 - FRET顕微鏡法でのFLIMおよびスペクトルイメージングの利用

FLIMには、一定の制約があり、そのために、FRETイメージングの中心的な技法になりにくいという現実があります。第一に、ナノ秒単位の寿命領域での測定は複雑であり、対応する機器については取得も保守も高価になります。また、この種の精巧な機器は、広く提供されていません。さらに、FLIMは通常、スピードが遅いイメージング技法に分類されるため、それぞれのイメージを取得するのに数分かかる可能性があります。結果的に、多くのFRET実験ではその利用が制限されることになります。このような制約は、将来的に、メーカーによってもっとユーザーフレンドリーで高速なターンキーシステムが開発され市販されれば、解消される可能性があります。その他の重要な欠点として、生体細胞において蛍光タンパク質の寿命がしばしば指数関数的に減衰するために、定量的なFRETアッセイでは、より包括的なデータ分析が必要になるというものがあります。さらに、局所的な環境要因、たとえば自家蛍光やpHの変化などによって、測定対象の蛍光寿命がさらに短くなる可能性があり、これがアーチファクトの原因になることもあります。このため、生体細胞でのFLIM-FRETデータの解釈については、十分な配慮が必要になります。

スペクトルイメージング

スペクトルイメージング技法は、感度補正発光のFRET検出方法のバリエーションですが、2つの個別のチャンネルを通じてデータを取得するのではなく、ドナーの励起のときに、ドナーとアクセプターの両方の蛍光を含む放出スペクトル全体を収集します。スペクトル全体を記録することは、分光法の実験における典型的なアプローチですが、広視野顕微鏡法と共焦点顕微鏡法では、そのツールパレットに加わったのは比較的最近です。このコンセプトは、蛍光スペクトル全体を収集すれば、発光ピークだけでなく、スペクトルテールの独特の形状を使用することによって、スペクトルの重なりを分離できるということが前提になっています。ドナーとアクセプターの両方の蛍光分子からスペクトルを集めれば、ドナーとアクセプターの蛍光の相対的なレベルを判定することもできます。

スペクトルイメージング技法には専用の機器が必要ですが、優れたシステムを多くの共焦点顕微鏡ですぐに利用できるようになっている上、わずかな費用で従来型の蛍光顕微鏡に追加することもできます。アクセプターの直接励起によりクロストークレベルの定量分析を行う方法や、共焦点顕微鏡法で2つの励起波長を使用する方法などによって、FRETの量を正確に判定することができます。このアプローチの主な欠点として、スペクトル全体の取得の場合、フィルターベースのシステムで2チャンネルで収集する場合と比べ、S/N比が低くなることが挙げられます。しかしながら、市販のシステムがますます多く開発され設置が進むのに伴って、FRETアッセイでのスペクトルイメージングの利用も増えています。近い将来、スペクトルイメージングがFRETイメージング実験での中心的な方法になる可能性は、きわめて高いと言えます。

図7(a)で示しているのは、mCeruleanおよびmVenus蛍光タンパク質を10-アミノ酸リンカーで融合させた、疑似FRETバイオセンサーのドナー寿命の減衰(mCerulean蛍光タンパク質)の変化です。青の減衰曲線は、mCeruleanのみを発現させた細胞で観察される寿命を示しており、赤の減衰曲線は、連結したタンパク質を細胞が発現しているときのmCeruleanの寿命を示しています。タンパク質が共鳴エネルギー移動に関与しているときにmCeruleanの寿命が短縮していることに注目してください。2つの曲線の間の領域は、FRETペアのmCerulean(ドナー)からmVenus(アクセプター)にFRETを通じて移動したエネルギーを示しています。生体細胞において405ナノメートルで励起したときの、同じ疑似バイオセンサーにおけるmCerulean-mVenusの450〜650ナノメートルの発光プロファイルを、図7(b)の赤い曲線で示しています。mCeruleanからmVenusへのエネルギーの移動の結果、529ナノメートル(mVenusの最大発光)でかなり大きな発光ピークが生じており、同時にmCeruleanのピーク発光波長、475ナノメートルではるかに低いピーク(約25%)が発生しています。514ナノメートルのレーザーでmVenusをフォトブリーチングし、スペクトルスキャンを繰り返した後、発光プロファイルは、低い波長にシフトし、FRETパートナーがない場合のmCeruleanのスペクトルに大変よく似たものになっています。これらのスペクトルプロファイルの475ナノメートルと529ナノメートルの輝度の差は、連結したタンパク質の間のFRET効率に対応しています。

偏光異方性イメージング

蛍光偏光の測定は、蛍光タンパク質FRETの高コントラストの識別において、特に大きな利点があります。この測定技法の概念は、偏光で励起させると、励起光の偏光ベクターと平行になっているような吸収ベクターを持つ一定量の蛍光分子が選別されるという事実に基づいています。励起の直後は、ほとんどの蛍光放出が、励起光と平行になって偏光された状態になっているため、この蛍光は偏光という観点で異方性を持つと考えることができます。この異方性は、ナノ秒単位の蛍光の寿命の間に分子が回転してしまうと消えることになります。ただし、蛍光タンパク質は大きく、回転速度が遅いため、その蛍光は、測定時間の間に、それほど大きく偏光が解消されるわけではありません。わずかにずれがある2つの蛍光タンパク質の間でFRETが発生した場合、偏光した蛍光の放出が(励起ベクターと)異なる角度で現れ、それが蛍光タンパク質の回転をシミュレートする結果になります。

図8 - Polarization Anisotropy FRET Imaging

このアプローチの大きな強みは、S/N比が高いことから、励起ベクターと平行な蛍光偏光、垂直な蛍光偏光を簡単に測定できることです。偏光異方性のデータは簡単に得ることができる上、イメージ処理もほとんど必要ないため、この技法は、ハイコンテントのスクリーニングにきわめて適しています。ただしアクセプターの直接励起は、ドナーのシグナルを減少させ、測定のS/N比を低下させるために、避けなければなりません。また、この技法は、FRETの存在と不在を区別する上では優れていますが、強いFRETと弱いFRETを区別する上で良いアプローチとは言えません。最後に、偏光は、高い開口数の対物レンズで低下する可能性があるため、偏光FRET実験は、開口数が1.0以下の対物レンズでイメージングするよう制限する必要があります。

図8で示しているのは、蛍光タンパク質を使用した偏光異方性をモデルシステムとして示した図です。ランダムな向きになっている蛍光タンパク質(図8(a))が、直線偏光した光(青緑色の波)で励起される場合、偏光方向と平行になっているような吸収双極子ベクターを持つ分子のみが選択的に励起されます。正しい方向を向いた蛍光タンパク質からの発光は、こちらも励起光偏光ベクター(緑色の波)と平行な検光子を使用することで、シグナルとして観察することができます。これによって生じる異方性は、向きの程度を示す指標になりますが、垂直方向および水平方向の検光子を介して、発光輝度を測定し比較することによって判定することができます。異方性のシグナルレベルは、蛍光タンパク質が実験時間の経過とともに回転したり(図8(b))、FRETによって、励起エネルギーが、異なる方向を向いた付近のタンパク質に移動したり(図8(c))すると、それにあわせて減少します。すでに述べたように、共鳴エネルギー移動は、大きい蛍光タンパク質分子の分子回転よりもはるかに速い速度で発生するため、FRETによる偏光解消は、回転中に発生する異方性の喪失とは容易に区別することができます。

FRETで蛍光タンパク質を使用する場合の考慮事項

生体細胞でFRETを検査する場合に使用できる適切なプローブについては、選択肢が限られています。合成蛍光分子は、固定細胞の共鳴エネルギー移動研究では理想的ですが、生体細胞では管理とターゲット化が困難になります。同様に、量子ドットは、細胞の外部の現象を検査する際に、膜成分に標識を付ける目的で利用することはできますが、膜を浸透することができないことから、核、ミトコンドリア、小胞体などの細胞内コンパートメントではほとんど使用することができません。この分野で毎年のように発表されている多くの論文で示されているように、遺伝子的にコード化された蛍光タンパク質が、現在、生体細胞のFRETの高分解能イメージングにおいて、もっとも有力な候補になっています。ただし、合成蛍光分子および量子ドットによるFRETの測定の際に見られる典型的なアーチファクトの多くは、蛍光タンパク質に適用した場合は特にひどくなります。たとえば、合成物質の放出スペクトルプロファイルが、30〜40ナノメートルという帯域幅であるのと対照的に、蛍光タンパク質の帯域幅は約60ナノメートル〜100ナノメートルにも及び、多くの場合、ドナー蛍光とアクセプター蛍光を分離しようとするとき、その重なりが大きくなっています。蛍光タンパク質では、そのスペクトルプロファイルが広いことから、FRETなどのイメージング実験で一緒に使用できるプローブの数も制限されます。さらに、蛍光タンパク質は、輝度レベルも変動が大きくなっています。たとえば、もっとも人気のあるドナータンパク質、ECFPは、一般的な黄色アクセプターパートナーであるEYFPと比べると、輝度が5分の1しかありません。

蛍光タンパク質の発色団の周辺では、220+のアミノ酸のポリペプチドが、約2.4×4.2ナノメートルの寸法を持つ三次元円筒構造(βバレルまたはβカンと呼ばれるもの)で存在していますが、これは、広範に水素が結合しているポリペプチドβシートで構成されたもので、発色団を含む中央のαヘリックスを取り巻いて保護しています(図9を参照)。バレルの末端は、セミヘリカルのペプチド領域になっており、イオンや小さい分子が入り込めない構造になっています。このタンパク質の内部は、アミノ酸の側鎖と水分子がぎっしりと詰まっており、バレルの末端を通じて通過しようとする酸素、イオン、その他の小さな分子が進入し拡散する余地はほとんどありません。このような理想的な構造的要因は、回復力のある光安定性や蛍光タンパク質の優れた性能の要因にも、ある程度なっていますが、同時に、低いFRET効率の原因にもなっています。バレルのサイズが大いために、隣接する蛍光タンパク質の発色団をペプチド残基で完全に遮断してしまうため(最大接近距離は2〜3ナノメートル〈図9の赤い線で示したもの〉)、最大FRET効率が理論値の約40%まで低下します。とは言うものの、生体細胞FRETイメージングで蛍光タンパク質を使用することには多くの利点があり、それがこのような損失を上回る結果になっています。

図9 - 蛍光タンパク質の構造的特徴

スペクトル帯域幅の重なりが大きく、同時に蛍光タンパク質のサイズの問題が存在することから、オリゴマー化する傾向が出てきます。これまで見つかっているほとんどすべての蛍光タンパク質には、少なくとも一定程度の四次構造が見られ、それは、天然のオワンクラゲ由来緑色蛍光タンパク質とその誘導体が、高い濃度で固定されると、二量体化する弱い傾向があることによって示されます。この傾向はまた、サンゴやイソギンチャクから分離された天然の黄色、橙色、赤色蛍光タンパク質の堅固な四量体モチーフによっても確認されます。オリゴマー化は、蛍光タンパク質が、特定の細胞内領域をターゲットとする宿主タンパク質に融合する場合など特に、細胞生物学の多くの分野で大きな問題になることがあります。いったん発現すると、キメラの蛍光タンパク質部分によって誘導された結果、二量体およびそれより高次のオリゴマーが形成されて、それが不規則な局在化をもたらしたり、正常な機能を混乱させたり、シグナル伝達カスケードを邪魔したり、融合産物を特定の細胞小器官や細胞質の内部の凝集体に制限したりすることがあります。このような効果は、蛍光タンパク質が、天然オリゴマー構造の一部になっているパートナーに融合するときに特に顕著です。弱い二量体のみを形成するタンパク質との融合産物(実際には、ほとんどのオワンクラゲバリアント)は、局所的な濃度が低いままであれば、凝集や不適切なターゲティングを示すことはありません。ただし、弱い二量体の蛍光タンパク質が、原形質膜など、特定の細胞内コンパートメントをターゲットにしている場合は、環境によっては、局所的なタンパク質濃度が、二量体化を促すほど高くなることもあります。これは特に、分子間FRET実験を行っているときに、懸念事項になることがあります。というのも、この実験でもたらされる複雑なデータセットが、二量体アーチファクトによって阻害されることがあるためです。一方で、オワンクラゲタンパク質で自然に発生する弱い二量体化については、場合によっては、他の手段ではダイナミックレンジが限定されるようなバイオセンサーのFRETシグナルを増加させる目的で利用することもできます。

合成蛍光分子の過剰な濃度の他、局在化がうまく行っていない蛍光タンパク質の過剰発現や凝集が原因で発生する問題として、毒性があります。さらに、顕微鏡のイメージングチャンバー内にある、光学的な標識を付けた哺乳類細胞の健康や寿命についても、多くの有害因子によって悪い影響を受ける可能性があります。このうちもっとも顕著なものが、光によるダメージ(光毒性)で、これは、蛍光標識細胞をレーザーや高輝度のアーク放電ランプの照射に繰り返し曝すときに発生します。蛍光分子は、励起状態において、酸素分子と反応することによって、細胞内の成分にダメージを与えたり細胞全体を損傷したりするフリーラジカルを生成する傾向にあります。蛍光タンパク質は、蛍光分子が保護用のポリペプチドエンベロープ内の奥深くに埋められているために、一般的に細胞に対して光毒性はありません。FRET実験を設計する際は、特に長時間のイメージング実験を行う場合など、短波長照射による細胞のダメージを最小限にするために、極力長波長の励起波長を出せる蛍光タンパク質結合を選択する必要があります。このため、青色または青緑色蛍光タンパク質(特に紫外線および青色の照射で励起する場合)の融合産物やバイオセンサーを作成するよりも、黄色、橙色、赤色のスペクトル領域で発光するバリアントの方がはるかに理想的と言えます。

研究者は、細胞毒性や光毒性によるアーチファクトによってFRETの結果やその他の重要な生物学的現象が不明瞭になってしまうことのないよう、新しい蛍光タンパク質バイオセンサーや細胞株を使用するときは、必要な対照実験を行うよう配慮する必要があります。場合によっては、一過的なトランスフェクションの後に細胞株をイメージングする際、脂溶性の試薬によって、蛍光タンパク質の毒性と混乱してしまうような有害な結果がもたらされることもあります。サンゴ由来のオリゴマー蛍光タンパク質(上記で述べたもの)の方が、(細胞内の局在化がうまく行っていないことと相まって)単量体クラゲタンパク質よりもはるかに凝集を生じやすくなりますが、どのバリアントであっても、不適切にフォールディングされた融合産物が発生することがあります。近年、発色団補助光不活性化法(CALI)による特定タンパク質の不活化のための効果的な化学物質として、緑色の光を照射したときに活性酸素種(ROS)を生成できる蛍光タンパク質が報告されました。この遺伝子組み換え光増感剤には、KillerRedというわかりやすい名前がつけられていますが、この物質を使うと、顕微鏡で光を照射したときに、細菌と真核生物の両方の細胞を殺すことができます。これまでのEGFP光毒性に関する研究では、発色団が一重項酸素を生成できたとしても、蛍光タンパク質は、光増感剤としては比較的効果が少ないことが示されていました。しかし、EGFPとそのバリアントを発現する細胞に対して長い照射を行うと、生理的な変化が起き、最終的には細胞が死ぬことまで起こりうるということがわかり、これが、長時間のイメージング実験での光毒性の可能性を示す明確な証拠になっています。

蛍光タンパク質は、生体細胞実験においては、合成蛍光分子と比べるとフォトブリーチングの割合が小さく、長時間のイメージングを行えるという点できわめて有用です。光安定性という点では、蛍光タンパク質には相関のない高いばらつきがありますが、ほとんどのバリアントは、短時間のイメージング(1〜25キャプチャー)では有用であり、さらに、光安定性が高いタンパク質のいくつかについては、24時間以上も継続するタイムラプスシーケンス(数百から数千イメージが収集されるもの)で使用することもできます。ただし、特定のタンパク質の長期的な安定性については、すべての照射シナリオ(広視野、共焦点、多光子、スウェプトフィールドなど)で検証しなければなりません。これは、同じタンパク質でも、アーク放電ランプとレーザーシステムでは、しばしば光安定性に差が出るためです。このように、蛍光タンパク質を選択する際は、光安定性という点では、照射条件、発現システム、イメージング機器の効率など、さまざまな要因が影響します。

潜在的な蛍光タンパク質FRETパートナー

過去数年間、広範囲の新しい蛍光タンパク質バリアントが開発され、200ナノメートル(約450ナノメートル〜650ナノメートル)の範囲の発光プロファイルを持つよう改善されてきました。このため、それまでの多くのギャップが埋まることになり、利用価値の高いFRETパートナーがすべてのカラークラスで提供されるようになりました。近年、青色(440ナノメートル〜470ナノメートル)および青緑色(470ナノメートル〜500ナノメートル)のスペクトル領域においてタンパク質の開発が進んだために、イメージングやFRET研究で利用可能ないくつかの新しいプローブが生成されることになりました。3つのタンパク質工学グループによって、輝度と光安定性がEBFPより大幅に向上した、オワンクラゲ由来の改良型青色蛍光タンパク質バリアントが報告されています。これらのタンパク質は、それぞれAzurite、SBFP2(強力な改良型青色FP)、EBFP2表1を参照)という名前のものですが、青色スペクトル領域における生体細胞の長時間イメージングにおいて最初の現実的な候補になっており、FRETバイオセンサーにおいて、EGFPや誘導体と組み合わせて使用する上で大きな可能性があります。新しい青色レポーター、EBFP2は、輝度と光安定性がもっとも高く、融合においては典型的なGFP様の動作をする上、緑色スペクトルクラスのタンパク質で優れたFRETドナーとして機能します。これらのすべての青色蛍光タンパク質は、アフターマーケットメーカーが提供している標準的なDAPIフィルターセットやプロプライエタリなBFPセットを使用することで、蛍光顕微鏡でのイメージングに容易に利用することができます。

青緑色スペクトル領域での蛍光タンパク質は、黄色発光タンパク質と組み合わせることにより、FRETドナーとして広範に適用されてきましたが、mTFP1という名前の単量体青緑色レポーターが導入されるまでは、オワンクラゲに由来するオリジナルのECFPのバリアントの影響下から抜け出すことができませんでした。この青緑色蛍光タンパク質は、オワンクラゲ由来のCFPと比べると、輝度と酸安定性が高く、光安定性もはるかに高くなっています。mTFP1は、発光量子収率が高いため(表1を参照)、黄色または橙色蛍光タンパク質と組み合わせるとき、FRETドナーという点で、青緑色誘導体、mECFPやmCeruleanの優れた代替手段になります。さらに研究が進んだ結果、青緑色スペクトルクラスにおいて優れたタンパク質が創成されました。近年発表された改良型青緑色蛍光タンパク質のうち、CyPetと、Ceruleanという名前の改良型青緑色バリアントが、融合タグ、FRETバイオセンサー、マルチカラーイメージングの候補としてもっとも有望です。Ceruleanは、ECFPよりも少なくとも2倍明るくなっており、FRETの研究において、Venus(以下を参照)などの黄色放出蛍光タンパク質と組み合わせて使用することで、非常に高いコントラストとS/N比を実現できています。CyPet(Cyan fluorescent Protein for energy transfer〈エネルギー移動用青緑色蛍光タンパク質〉の頭字語からつけられたもの)という名前のCFPバリアントは、蛍光活性化セルソーティング(FACS)を使用して、FRETの青緑色および黄色ペアを最適化するというユニークなストラテジーによって派生したものです。CyPetは、EGFPの約2分の1、Ceruleanの3分の2の明るさですが、発現は摂氏37度で比較的緩いものになります。ただし、CyPetは、CFPよりも青色へのシフトが強く、蛍光放出ピークも狭くなるため、マルチカラーイメージングで使用する上での潜在性はかなり高くなります。

ECFPの単量体バリアントにフォールディング変異を起こすことは有用であり、その結果、輝度が高く、フォールディング効率、溶解度、FRET性能などに優れた、新しいバリアントが生成されました。Super CFP(SCFP)という名前のこの新しいレポーターは、細菌で発現すると親タンパク質よりもはるかに明るくなり、哺乳類細胞では約2倍の明るさになります。これらの高性能プローブは、定型的に使用する融合タグと、ダイナミックレンジが大きい新しいCFP-YFP FRETバイオセンサーの創成の両方において有用になります。別の新しい単量体青緑色レポーター、TagCFPは、ヒトモシクラゲ由来のGFP様のタンパク質から生成されたものです。このタンパク質の詳細については、この論文では扱いませんが、Evrogenによって哺乳類クローニングベクターおよび融合タグとして市販されています。TagCFPは、ECFPやCeruleanよりも明るいと報告されていますが、酸耐性は同等です。その他の青緑色発光タンパク質、Midoriishi-CyanMiCyと省略されます)は、元々、monomeric Kusabira OrangemKO表1を参照)との新しいFRET結合におけるドナーとして設計されたもので、スペクトルの重なりが大きい(フェルスター距離、5.3)バイオセンサーを生成するためのものです。このタンパク質は、青緑色スペクトル領域のプローブとして報告されている中で、もっとも長い吸収および発光波長プロファイル(それぞれ472ナノメートルおよび495ナノメートル)を持っています。MiCyでは、モル吸光係数と量子収率が高く、Ceruleanと同等の輝度を持っています。

表1 - 代表的な蛍光タンパク質FRETペアの特性

Protein PairDonor Excitation Maximum
(nm)
Acceptor Emission Maximum
(nm)
Donor Quantum YieldAcceptor Molar Extinction CoefficientFörster Distance
(nm)
Brightness Ratio
EBFP2-mEGFP3835070.5657,5004.81:2
ECFP-EYFP4405270.4083,4004.91:4
Cerulean-Venus4405280.6292,2005.41:2
MiCy-mKO4725590.9051,6005.31:2
TFP1-mVenus4925280.8592,2005.11:1
CyPet-YPet4775300.51104,0005.11:4.5
EGFP-mCherry5076100.6072,0005.12.5:1
Venus-mCherry5286100.5772,0005.73:1
Venus-tdTomato5285810.57138,0005.91:2
Venus-mPlum5286490.5741,0005.213:1

緑色カラークラス(500ナノメートル〜525ナノメートル)におけるFRETレポーターのライブセルイメージングとして最善の選択は、GFP誘導体、Emeraldで、これは、その親タンパク質EGFPと同等の特性を持っています。Emeraldには、EGFPのF64LおよびS65Tに変異がありますが、そのバリアントにはさらに、フォールディング、摂氏37度の発現、輝度を改善する4つの追加変異があります。近年、緑色スペクトル領域に新しい追加が行われ、Superfolder GFPが創成されました。これはEGFPやEmeraldよりも明るく、酸耐性も高くなっており、光安定性も同等レベルを維持しています。そのため、Superfolderバリアントは、哺乳類タンパク質との融合およびFRETバイオセンサーの創成という点において、特に標準的なGFP誘導体との間でフォールディングの問題が起こるものについては、優れた候補になっています。その他の輝度の高い蛍光レポーターで、優れたFRET候補になるものとして、Azami Greenという名前のものがあり、これはイシサンゴに属するアザミサンゴから分離されたもので、哺乳類細胞株で発現するとき急速に成熟します。さらに、青緑色タンパク質のライブラリースクリーニングと、部位特異的変異導入およびランダム変異導入を組み合わせて創成された、2つの明るい単量体GFPレポーターも報告されています。軟サンゴ属由来のmWasabiは、青色バリアントがしばしば励起される400ナノメートル以下でごくわずかな吸光度しかないため、青色蛍光タンパク質に対応する緑色放出FRETパートナーの有力候補になっています。新しい緑色レポーターも市販されており(Allele Biotechnology)、特に、ストークシフトが長いタンパク質(たとえばT-Sapphire)と組み合わせた2色イメージングや、ターゲットタンパク質と融合する際の局在化タグとして使用すると有用です。TagGFPという名前を持つTagCFPの誘導体は、明るい単量体の緑色バリアントで、482ナノメートルで最大吸収、505ナノメートルで最大発光します。EGFPよりもわずかに明るいTagGFPは、Evrogenによりクローニングベクターおよび融合タグとして市販されていますが、研究論文において完全にその特性が示されているわけではありません。

黄色蛍光タンパク質(525ナノメートル〜555ナノメートル)は、これまで開発されたものの中でもっとも多目的な遺伝子組み換えプローブの1つであり、FRETペアにおいては、ドナーとアクセプターの両方の役割を果たすものとして候補に挙がります。CitrineVenusとして知られているバリアントは現在、このスペクトルクラスにおいてもっとも有用なタンパク質です(表1を参照)が、どちらも市販されていません。他のバリアントには、誕生石にあやかって名前がつけられたTopazというものがあり、Invitrogenがこれを販売していますが、融合タグの局在化、細胞内シグナル伝達、FRET研究などにおいて利用されています。Evrogenの局在化レポータータンパク質、「Tag」シリーズの新しいメンバーにTagYFPがあります。これは、単量体クラゲ(ヒトモシクラゲ)誘導体で、EYFPより少し暗いですが、光安定性は一桁高くなります。TagYFP(発光ピークは524ナノメートル)は、そのパートナー同様、論文でその特性が示されているわけではありませんが、哺乳類クローニングベクターおよび融合タグとして購入することができます。

CyPetの生成で使用した同じ蛍光活性化セルソーティング研究(上記で述べたもの)において、YPetという、進化的に最適化された相補的FRETアクセプターも創成されました。YPetは、FRETにおけるその熟達性にちなんだ名前(YFP for energy transfer)になっており、これまで開発されたものの中でもっとも明るい黄色バリアントで、まずまずの光安定性を持っています。YPetは、酸性環境に対する耐性がVenusやその他のYFP誘導体より優れているため、酸性の細胞小器官をターゲットにしたバイオセンサーの組み合わせにおいて、このプローブがよく利用されるようになっています。ただし、最適化されているCyPet-YPetの組み合わせが、新しいFRETバイオセンサーの開発の出発点としては優れているのは確かですが、それでも、YPetの性能向上の要因については大きな疑問が残ります。というのも、その性能向上が、一緒に進化したパートナー、CyPetで二量体化が単純に改良されたせいと考えられるためです。また同様に、局在化実験、二分子蛍光補完分析、その他の用途での融合タグにおけるCyPetとYPetの適合性が、いまだに確立されていません。どちらのタンパク質も、溶液内では弱い二量体として存在しますが、おそらく、他のオワンクラゲ由来バリアントでよく作用するA206K変異を使用すれば、真の単量体に変換できると考えられます(ただし、結果的にこれが、FRETの利点を潰してしまうのは明らかですが)。

橙色蛍光タンパク質は、どれもサンゴ種から分離されたものですが、さまざまなFRETイメージングシナリオで活用できる潜在性があります。おそらく、これらの中でもっとも用途が広いのは、Fungia concinna(日本語ではクサビライシとして知られる)の四量体に由来する単量体のタンパク質、Kusabira Orangeです。Kusabira Orangeの単量体バージョン(略語はmKO)は、部位特異的変異導入およびランダム変異導入により20以上の変異を導入して創成されました。この単量体(MBL Internationalが市販中)は、四量体と同様のスペクトル特性を持っており、EGFPに近い輝度値を持っていますが、酸性環境に対する耐性はその親よりわずかに落ちます。ただしこのレポーターの光安定性は、あらゆるスペクトルクラスのどのタンパク質よりも優れているため、結果的にmKOは、長時間のイメージング実験において優れた選択肢になっています。さらに、その放出スペクトルプロファイルは、青緑色蛍光タンパク質と十分離れていることから、mKOを含むバイオセンサーではFRET効率が上がります。そのため、このプローブは、青緑色、緑色、黄色、赤色のプローブと組み合わせたマルチカラー検査において非常に有用です。

図10 - 遠赤色アクセプターと蛍光タンパク質のFRETペア

図10で示しているのは、ECFP(図10(a))、EGFP(図10(b))、EYFP(図10(c))、mOrange(図10(d))の波長プロファイルで、それぞれが、遠赤色放出蛍光タンパク質アクセプター、mPlumに対するFRETドナーとして機能しています。ドナーの放出波長プロファイルが、長い波長にシフトしていく(青緑色から橙色)につれて、スペクトルの重なり(塗りつぶしたグレーの領域)と、計算上のフェルスター距離(R(0))がそれに応じて増加します。同様に、ドナーとアクセプターの発光ピークの波長の差が減るにつれて、励起クロストークと発光クロストーク(それぞれ赤と青でハッチングした領域)も増えます。ECFPとmPlumでは、励起スペクトルの重なりの度合いは限定的で、放出スペクトルについてはほとんどありません。対照的に、mOrangeとmPlumのペアでは、励起クロストークと発光クロストークの両方が高いレベルになっています。蛍光タンパク質のカラーパレットが拡大していけば、研究者は、それにあわせて広範囲の新しいFRETペアを利用できるようになります。

mRFP1誘導体、mOrangeは、mKOよりわずかに明るいですが、光安定性は10%以下であるため、何度もイメージングを繰り返す必要がある実験で利用する場合は、大きな問題があります。ただし、mOrangeは、橙色スペクトルクラスではもっとも明るいタンパク質であるという事実は変わらないため、長期的な光安定性よりも輝度が重要になる場面では、素晴らしい選択肢になります。しかも、mOrangeを緑色発光のT-Sapphireと併用すると、長い波長のバイオセンサーを生成するFRETペアとして、CFP-YFPタンパク質の優れた代替品になります。また、マルチカラー検査において、他のスペクトル領域のタンパク質と組み合わせて使用することもできます。現在、光安定性が劇的に向上した、mOrangeの改良型バージョン(mOrange2という名前)も提供されています。また、TagRFPという名前の、明るい新しい単量体橙色タンパク質も近年、局在化とFRET研究の候補として登場しており、広範囲のバイオセンサー構築物において、有効であることがわかっています。すべてのスペクトルクラスでもっとも明るい蛍光タンパク質は、オリジナルのフルーツタンパク質の1つである橙色誘導体、dimeric Tomato(dTomato)のタンデムバージョンです。Tomatoタンパク質には、N末端およびC末端に、GFPの最初と最後の7つのアミノ酸が含まれていますが、これは、融合タンパク質の耐性を向上させ、局所的な潜在的アーチファクトを減らして、同時にFRETバイオセンサーの利用可能性を向上させるために行った操作です。タンデム二量体バージョン(実質的には単量体)は、23-アミノ酸リンカーを使用して、dTomatoの2つのコピーの頭部と尾部が直列に結合する形態で融合させることによって作られました。発色団が2つあるため、tdTomatoはきわめて明るく、光安定性も際立って高くなっています。このタンパク質を使う場合の大きな欠点は、サイズが大きいということ(単量体タンパク質の倍)で、そのために、一部の生体高分子で融合タンパク質がパッキングできないということがあります。

理想的な赤色放出蛍光タンパク質を探し出すことは、FRETバイオセンサーおよび融合を使用した、生体細胞および生体全体のイメージングの目標であり続けています。これは、主として、マルチカラーイメージング実験においてこのスペクトル領域のプローブが必要であるという事実と、長い励起波長の方が光毒性が小さく、生体組織の奥深くまで調べることができるという事実のためです。これまで、実用になりそうな広範囲の赤色プローブが報告されており(590ナノメートル〜650ナノメートルで発光するもの)、そのうちの多くが、元の種に由来する四次構造を必然的に持っており、その悪影響を受けています。クラゲタンパク質と異なり、サンゴタンパク質天然バリアントおよび遺伝子組み換えバリアントのほとんどは、摂氏37度で非常に効率的に成熟します。変異導入研究が広く進められ、一方で新しい方法論も導入されるなどして、黄色、橙色、赤、遠赤色の蛍光タンパク質バリアントの探求に変異導入が応用されることになりました。こうして、自己会合しにくく、最大発光を長い波長にシフトした、潜在的に有効な生物学的プローブが探求されました。その結果、吸光係数、量子収率、光安定性の高い単量体タンパク質が生み出されましたが、すべての基準で最適化された単一のバリアントというものはまだ見つかっていません。

赤色mFruitタンパク質、mApplemCherrymStrawberry(発光ピークはそれぞれ592、610、596ナノメートル)は、EGFPの50%〜110%の輝度レベルを持っていますが、mAppleとmCherryについてはmStrawberryよりも光安定性が高く、長時間のイメージング実験では、mRFP1に代わる最高のプローブ候補になっています。体細胞超変異を繰り返すことによって、mFruitタンパク質のスペクトルクラスがさらに広がり、625ナノメートルおよび649ナノメートルという最大発光波長を持つ、2つの蛍光タンパク質が作られました。これは、遺伝子組み換えで作成した最初の真の遠赤色プローブになっています。このペアでもっとも利用可能性が高いと考えられるプローブは、mPlumという名前のもので、輝度値は限られています(EGFPの10%)が、光安定性に優れています。この単量体プローブは、マルチカラーイメージング実験において、青緑色、緑色、黄色、橙色の各領域で発光するバリアントと組み合わせて使用すると有用で、同時に、EmeraldおよびCitrineなどの緑色および黄色タンパク質のバイオセンサーFRETパートナーとして使用することもできます(図10を参照)。さらに、いくつかの他の赤色蛍光タンパク質も、サンゴ有機体から分離されていますが、有望さはそれぞれで異なります。TurboRFPバリアントに部位特異的変異導入およびランダム変異導入を適用し、遠赤色蛍光を示す変異でスクリーニングした結果、Katushkaという名前の二量体タンパク質が生み出されました(最大発光は635ナノメートル)。Katushkaは、EGFPの3分の2の明るさしかありませんが、奥深い組織イメージングが重要になる、650〜800ナノメートルというスペクトル領域の蛍光タンパク質の中では、最大の輝度レベルを示しています。4つの主要なKatushka変異株をTagRFPに導入することによって、似たようなスペクトル特性を持つ、mKateという名前の単量体の遠赤色タンパク質が生み出されました。報告によると、mKateの光安定性は際立っており、同時に、このタンパク質はmCherryと同程度の輝度を示していることから、遠赤色のスペクトル領域での局在化とFRET実験において、優れた候補になっています。

蛍光カラーパレットが橙色、赤色、遠赤色のスペクトル領域にまで拡大したことは大変な進歩ですが、有用なバイオセンサーを開発する上で、青緑色および黄色のオワンクラゲ誘導体が、もっとも有用なペアリングシナリオであることには変わりありません。このような予想外の不一致が起こるのは、ほとんどの燈色と赤色のサンゴ由来タンパク質が、紫色や青緑色の領域まで延びる長い励起テールを持つ比較的広い吸収スペクトルプロファイルを示すことから、アクセプターに直接励起を引き起こしてしまうためです。また、これに影響している他の要因として、融合した蛍光タンパク質パートナーの成熟速度が比較的速いことがあります。ほとんどのケースで、オワンクラゲタンパク質に由来するバリアントは、サンゴ由来のものよりはるかに速く成熟することから、未成熟のアクセプターが、多くのサンゴ由来のタンパク質に見られる、増感発光の劣化の原因になっている可能性があります。さらに、橙色タンパク質と赤色タンパク質の吸収スペクトルが広いことが、単量体バージョンの低い量子収率と相まって、FRETでの使用を困難にしているとも考えられます。蛍光タンパク質FRET実験設計の今後の成功は、どの要因よりも、ペアのタンパク質の成熟速度の一致が鍵ということになるでしょう。

結論

どこにでもある蛍光タンパク質ファミリーを使用してFRET実験を行えば、生体細胞系内の分子のダイナミクスを明らかにできる可能性は非常に高くなりますが、現時点では、完璧なFRETペアというものは存在しません。CFPとYFPの最適なバージョンにより、汎用性の高いもっとも効果的なペアが生成されますが、もっと優れた組み合わせが今後姿を現すかも知れません。同様に、ここまで説明したアプローチにはすべて、研究での特定の実験状況によっては利用できるような強みもあるにはありますが、FRETを測定するための完璧な方法というものはありません。GFPドナーまたはYFPドナーのアクセプターに適した明るい赤色バリアントを含め、さらに最適化された蛍光タンパク質が利用できるようになれば、蛍光タンパク質を使用したFRETは、生体細胞におけるタンパク質間相互作用の研究においてさらに有用になるはずです。すでに説明したように、赤色蛍光タンパク質の現在のパレットは吸収スペクトルが広く、同時に単量体バージョンの量子収率が低いことから、これらの候補をFRETで採用するのが難しくなっています。しかし、蛍光タンパク質の開発が現在のように急速に進んでいることを考えると、近い将来このようなタンパク質が提供され、さらに、細胞内の生化学メカニズム解明へのアプローチに大変革がもたらされるようになるというような楽観的な見方が出てくるのも当然ではないでしょうか。

Contributing Authors

Gert-Jan Kremers and David W. Piston - Department of Molecular Physiology and Biophysics, Vanderbilt University, 702 Light Hall, Nashville, Tennessee, 37232.

Michael W. Davidson - National High Magnetic Field Laboratory, 1800 East Paul Dirac Dr., The Florida State University, Tallahassee, Florida, 32310.

Share this article: