光学顕微鏡観察法の回折限界

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光学顕微鏡は、17世紀にオランダの発明家、アントニ・ファン・レーウェンフックと英国の科学者、ロバート・フックが最初に、それぞれ単レンズ顕微鏡と複式顕微鏡を使用した観察記録を残して以来ずっと、生物学の複雑なミステリーを解明する上で中心的な役割を果たしてきました。過去3世紀の間、数多くの技術的発展や製造上の飛躍的進展が起こり、顕微鏡の設計も大幅に進歩して、結果的にイメージ品質が向上すると同時に、収差も大幅に減少しました。近年では、最新のレンズ部品を製造する際、コンピュータを使った光学設計や自動研磨方式なども採用されていますが、それにもかかわらず、ガラスを使用した顕微鏡では、その光学分解能はいまだに、回折による究極的限界によって制約を受けています。なお、この回折は、可視光線が対物レンズの後部焦点面にある円形開口部を通過するときに、その波面によって生じるものです。結果として、光学顕微鏡で実現可能な最高の2点間分解能は、複数の基本的な物理法則によって規定されることになり、この限界は、対物レンズや開口部設計を合理的に改変しただけでは、容易に克服することができません。このような解像限界は、しばしば回折限界と呼ばれ、このために、光学機器においては、2つの物体の間に、標本の解像に使用される光の波長の約半分を超える横方向距離が空いていなければ、これらの物体を区別できなくなります。

図1 - 光の波の性質によって課される解像限界

回折のプロセスには、典型的な標本に存在する複雑な構造と光が相互作用するときに発生する光波の広がりが関わってきます。顕微鏡で観察するほとんどの標本では重なり合っている形状が多い(これらの形状は、複数の点光源によってそれをもっとも適確に表現することができます)という事実のために、顕微鏡の回折限界の議論では、単一の点光源から、さまざまな光学素子やリング絞りを通過する波面の通路が主として描かれます。以下で説明するように、顕微鏡の標本面の1点から出てくる透過光や蛍光の放出波面は、対物レンズ開口部の端部で回折し、波面を効果的に広げて、点光源のイメージを生成します。このイメージは、中央が有限ですが、元の点よりサイズが大きいディスクを持つ回折パターンの中に広がります。そのため、標本のイメージが、顕微鏡の光学系で構造的な詳細を解像できる範囲を下回っている場合は、光の回折のために、標本内の実際の詳細が完全に映されなくなります。

光学機器において異なる光波で発生するこのような回折現象の他にも、干渉のプロセスによっても、2つ以上の重なった波面の再結合や結合が現れます。光の干渉は、光学顕微鏡観察法においては、おそらくもっとも遍在的な現象であり、イメージ形成のあらゆる側面で中心的な役割を果たしています。蛍光顕微鏡法または共焦点レーザー顕微鏡法の場合、対物レンズの役割は、励起光を焦点に集中させて、標本面に集中した波面で建設的干渉を起こすことです。この条件においては、建設的干渉(以下で説明)によって、すべての対物レンズの開口角から入射した波面の電界ベクトルが同じ位相に存在することになり、そのために最も小さい励起スポットを生成できるようになります。

干渉と回折は、実際には同じプロセスを表したものですが、この両方が、顕微鏡の中間像面において、標本の実際のイメージを形成する上で重要な役割を果たしています。簡単に言うと、2つの波が完全に同位相であれば、2つの波面の間で干渉が起こって振幅が倍になりますが(建設的干渉)、位相が180°ずれている場合は、2つの波は互いに完全に打ち消し合います(相殺的干渉と呼びますが、ほとんどの干渉はその間のどこかに入ります)。光波に内在する光子エネルギーは、2つの波が干渉するときに、それ自体が倍加したりなくなったりすることはなく、このエネルギーは、回折や干渉の間、建設的干渉が起こりうるような方向に転換されます。そのため、干渉と回折は、光波と光子エネルギーの再分配を含んだ現象と考える必要があります。

顕微鏡の観察対象物、たとえば蛍光タンパク質の単一の分子などは、干渉の作用によって生成された回折パターンで構成されるイメージを中間平面に生成します。観察対象物の回折パターンを高倍率で拡大すると、中心点(回折ディスク)があり、その周辺を回折リングが囲んでいることが観察されます(図1を参照)。回折理論に関連する用語体系では、明るい中心領域は、ゼロ次の回折スポットと呼ばれ、周囲のリングは、一次、二次、三次……の回折リングと呼ばれます。顕微鏡の焦点が正しく合っているとき、リングとリングの間の光の最小の輝度は0になります。このような点光源回折パターンを総称して、エアリーディスク(19世紀の英国の天文学者、ジョージ・B・エアリー卿にちなんでつけられた名称)と呼びます。エアリーパターンの中央のスポットのサイズは、光の波長や対物レンズの開口角によって決まります。顕微鏡の対物レンズの場合、開口角は開口数(NA)で表されますが、この値はsinθ(θは対物レンズが標本から光を集められる角度の半分)の項を含んでいます。分解能の観点からは、横方向(x,y)の像面の回折エアリーディスクの半径は、次の式で定義されます。

Formula 1 - Radius of the Diffraction Airy Disk in the Lateral (x,y) Image Plane

アッベの分解能 x,y = λ/2NA

ただし、λは、透過光の場合は照明の平均波長、蛍光の場合は励起波長帯になります。なお、対物レンズの開口数(NA = n•sin(θ))は、イメージング媒体の屈折率(n、通常は空気、水、グリセリン、油のいずれか)に、開口角の正弦(sin(θ))をかけた値で定義されます。この関係式の結果、点光源によって作られるスポットのサイズは、波長の減少と開口数の増加に伴って減少しますが、常に有限直径を持つディスクになります。このため、開口数0.90を持つ100倍の対物レンズで緑色光(550ナノメートル)を使用する場合、イメージスポットサイズは約30マイクロメートルになり、開口数1.4を持つ100倍の対物レンズの場合、イメージスポットサイズは、ほぼ50%小さい、約200ナノメートルになります。回折限界の分解能の理論は、1873年に、ドイツの物理学者、エルンスト・アッベによって進展しましたが(公式(1)を参照)、その後、1896年にレイリー卿が、2つのエアリーパターンを別の実体として区別する際、それを分離する上で必要になる分離値を定量化したことで、一層進展しました(公式(3))。

Formula 2 - Measure of Separation Between Two Airy Patterns

アッベの分解能 z = 2λ/NA 2

アッベの理論によると、イメージは、すでに述べたように、異なる輝度を持つ一連の回折限界スポットで構成されており、これが重なり合い最終的な結果を生成します。このため、空間分解能やイメージコントラストを最適化するための唯一のメカニズムは、イメージングの波長を下げると同時に、開口数を増やすか、屈折率が大きいイメージング媒体を使用することによって、回折限界スポットのサイズを最小にすることです。しかしながら、きわめて強力な対物レンズを使用した理想的な条件下であっても、400ナノメートル以下の波長におけるガラスの透過特性と開口数の物理的な制約のために、横方向の分解能は、200〜250ナノメートル(公式(1)を参照)という比較的控えめなレベルにとどまっています。対照的に、エアリーディスクの軸方向には、点拡がり関数(PSF)と一般的に呼ばれる楕円パターンが形成されます。点拡がり関数は光学軸方向に細長い形状になりますが、これは、顕微鏡の対物レンズから発生する非対称的な波面の性質が原因になっています。光学顕微鏡観察法の(公式(2)で示しているような)軸方向の分解能は、横方向の分解能より、500ナノメートルのオーダーで下回ることもあります。細胞小器官などのきわめて複雑な形状をイメージングしようとするとき、回折限界の分解能のために、像面において、軸セクショニング機能が劣り、そのコントラストも低くなります。さらに、三次元標本で得られる標本全体のコントラストについても、点拡がり関数によるアウトフォーカスの光干渉のために軸分解能が比較的低くなることから、一般的にそれによって影響を受けます。

図1は、対物レンズの開口角が、典型的な光学顕微鏡で生成される回折スポットのサイズにどのような影響を及ぼすかを示しています。この図では、大きい開口数を持つ対物レンズ(図1(a))と小さい開口数の対物レンズについて、点光源と、波面が収束し建設的干渉を起こしている像面での共役(P)を示しています。P1の点は、特定の距離(対物レンズの開口数で決まります)の相殺的干渉が、最初の最小回折の場所を定義する位置、つまり回折スポットの半径を定義する位置に来るまで、焦点面を横方向に動いたものです。図1(a)の高分解能構成では、波面のポイントAとポイントBが、イメージのスポットサイズを定義する、10任意単位の比較的小さいスポットサイズを生成しています。対照的に、図1(b)の低分解能構成では、開口角が小さいために、AとBの距離が18任意単位まで拡大しています。言い換えると、蛍光分子(点光源)から放出される光が、対物レンズによって像面に集中され、そこで、同じ距離を移動した波面が像面に同じ位相で到着して、これが建設的に干渉し、高い輝度のスポットを生成するということになります。相殺的干渉が起こると、輝度がゼロになりますが、このとき、位相が2分の1波長ずれて到着する波面によって生成されます(上の説明を参照)。輝度はスポットの横軸に沿って少しずつ低下するため、スポットのサイズよりも近い距離にある2つの点光源(または蛍光分子)は、単一の大きなスポットとして現れ、分離されません。

図2 - 横軸分解能に対するレイリー規準

すでに述べたように、エアリーディスクの三次元での輝度分布は、点拡がり関数とも呼ばれ、回折限界のある光学顕微鏡で加わる、横方向(x、y)と縦方向(z)の点光源(単一の蛍光分子など)の回折パターンを完全に表現するものです。この点拡がり関数のサイズは、イメージングライトの波長と、対物レンズ(開口数)の特性、イメージング媒体の屈折率によって決まります。分解能は、実質的には、個別の発光体として区別できる(単一のスポットに併合されない)、2つの点状の物体の間の最小の距離としてしばしば定義されます。結果として、ほとんどの分解能規準(たとえばレイリー規準、スパロー限界、半値全幅〈FWHM〉など)が、点拡がり関数の特性と形状に直接関係することになります。

Formula 3 - Rayleigh Criterion

レイリーの分解能 x,y = 0.61λ/NA

レイリー規準によると、顕微鏡にある2つの点光源は、1つの点光源から発生する主要な最大回折(エアリーディスクの中心スポット、図2を参照)が、他の点光源によるエアリーディスクの第1の最小回折(中心スポットの周囲にある暗い領域)に重なるとき、解像するものと見なされます。2つのエアリーディスクまたは点拡がり関数の間の距離が、この値より大きい場合、2つの点光源は、解像している(すぐに区別できる)ものと考えられます。それ以外の場合は、エアリーディスクは一つになるため、解像していると見なされません。言い換えれば、非常に近い距離にある点光源のイメージ間の距離が点拡がり関数の幅とほぼ同じである場合に、レイリー規準は満たされます。対照的に、スパロー解像限界は、イメージにおいて、中心のピーク間に輝度の低下が見られず、ピーク間の領域の間の輝度が一定になっているような、2つの点光源の間の距離と定義されます。スパロー解像限界は、アッベ値に近く、レイリー解像限界の約3分の2になります(公式(4))。

Formula 4 - Sparrow Resolution

スパロー分解能 x,y = 0.47λ/NA

図2で示しているのは、2つの近接する点光源の横方向と軸方向の両方に対するレイリー規準をグラフ化したものです。図2(a)では、それぞれの点光源の輝度が青の実線と黄色の点線による曲線で示されています。組み合わさった点光源によって生成される合計の輝度が赤の曲線で示されており、わかりやすくするために縦座標をずらしています。これらの点光源が区別されるためには、ピーク間の距離が、ピーク輝度の20〜30%低い最小輝度になるほど、空いている必要があります(図2(a))。同じ規準が軸方向にも当てはまります(図2(b))。ただし、xy軸の分解能はz軸よりもはるかに小さい値になっていますので(図2(a)および図2(b)で横座表で示しているもの)、注意が必要です。

レイリー規準および同様の規準値は、標本の観察において有用な分解能の基準になっていますが、このような分解能の定義には、欠点もいくつかあります。たとえば、2つの粒子が結合して単一点のイメージができていることがわかっている場合、コンピュータのアルゴリズムを適用することで、その粒子を区別して、もっと小さい任意の値まで分離することができます。このとき、2つの隣接する粒子の正確な位置を決定する操作では、レイリー限界ではなく、光子の統計によって決定された実験精度が使用されます。しかも、解像限界は必ずしも、イメージで観察できる詳細レベルに対応しているわけではありません。レイリー限界は、点拡がり関数の最初の最小値の中心からの距離として定義されますが、先進の光学系や線形光学系では、この値を小さくすることができます。また分解能規準においても、光が回折波面で、実際に波の中に含まれる詳細レベルにまで有限限界が収まるという事実が前提になっていません。

分解能を示すアッベ公式では、レイリー規準とスパロー限界のこのような欠点を回避していますが、より間接的な解釈になっています。顕微鏡で標本をイメージングするプロセスは、照射および蛍光放射(または透過光)の点拡がり関数の間のコンボリューション操作によって描くことができます。顕微鏡で観察した物体(周期的かどうかに関係なく)は、フーリエ変換(図3を参照)を適用した後、異なる空間周波数を持つ数多くの正弦曲線の合計として独自に描くことができます。ただし、すべての共役像面に存在する標本のイメージは、対応する開口面でフーリエ変換として存在し、そこでは、高い周波数が標本を詳細に表現し、低い周波数が粗く表現しています(図3(a))。図3(b)では、この点について、対物レンズ後部開口部の波形で表しています。開口部中心付近に低い空間周波数があり、周波数は、開口部周辺に近い領域に行くほど少しずつ増えています。

図3 - 実空間とフーリエ空間における回折限界

実空間でのコンボリューションの概念は、フーリエ空間で同等の演算を実行することによって、簡単に示すことができます。フーリエ空間では、変換した物体を、点拡がり関数のフーリエ変換で乗算し、ノイズのない理想的なイメージのフーリエ変換を生成します。フーリエ変換が行われた後、その点拡がり関数は、その標本のそれぞれの空間周波数がどの程度効率的に最終イメージに変換されているかを表します。このため、フーリエ変換した点拡がり関数は、光学伝達関数(OTF図3(b)を参照)と呼ばれます。OTFは、イメージ処理の際に、標本についての情報を含んだ空間周波数が喪失、保有、減衰、位相変移される範囲を定義します。イメージングの際に失われる空間周波数情報は回復することがないため、あらゆる形式の顕微鏡の主要な目標は、その標本で実現可能なもっとも高い周波数範囲を達成することになります。それぞれの空間周波数でのOTFの値(メートル当たりの振動数で測定)は、特定の正弦波の物体形状が最終イメージで実現するコントラストを表す便利なインジケーターになります。

光学顕微鏡について憶えておくべき重要な点として、検出光学伝達関数が、分解能「カットオフ」境界(アッベ限界周波数、図3(b)を参照)として機能する特徴的な周波数を持っているということがあります。この限界値以上の周波数は、顕微鏡によって記録されるイメージには存在しなくなります。そのため、対物レンズを通過できるもっとも高い空間周波数に対するピーク間の距離(図3(a)の緑の波形に対するd)は、一般的にアッベ限界と呼ばれ、より公式には、最終イメージで検出できる構造における、もっとも小さい周期として定義されます。点光源が広範囲の空間周波数を放出または伝達するという事実によって、アッベ限界は、三次元に広がる点拡がり関数でも存在しなければなりません。

結論

従来型の広視野顕微鏡は、光が光路を通過し最終的に像面で干渉するときに、対物レンズ内のさまざまな場所でその光を捉え、その波面を処理することによって、点光源のイメージを生成します。光学における相反定理の結果、顕微鏡の横軸におけるアッベ限界は、対物レンズによって捉えられるもっとも極端な角度の2つの波の干渉によって取得できるピーク間の距離に対応しています。アッベの解像限界は、標本から出た波面と対物レンズで捉えられる波面の間の最大相対角度のみによって決まるため、魅力的です。そのため、この限界は、イメージング可能なもっとも細かい詳細レベルを表し、高い空間周波数(短い波長)の周期構造は、画像に伝達されないなります。

光学顕微鏡に最高品質のレンズ素子が装備され、それが完全に調整されていて、最高の開口数を持っている場合でも、分解能は、最善のケースで、光の波長の約半分に制限されてしまいます。実際、通常日常的なイメージングで実現できる分解能は、回折によって課される物理的な限界まで達していないことが普通です。これは、標本の光学的不均一性によって励起ビームの位相が歪むために、焦点体積が想定回折限界よりもはるかに大きくなるという事実によります。また、適合性のない油浸オイルや、最適な範囲を逸脱した厚さのカバーガラス、調整が不適切な補正環などを使用することによって、分解能が犠牲になる可能性もあります。

横方向と縦方向の両方で空間分解能を適度に向上させるために、共焦点レーザー顕微鏡法および多光子顕微鏡法が広く使用されていますが、これらの技法は、大幅な向上を果たすという点では限界があります。共焦点顕微鏡法におけるピンホールで制限された検出に、合焦したレーザー励起を組み合わせると、原理的に、空間分解能が1.4倍も改善しますが、ただしこの方法の場合、S/N比がかなり犠牲になります。同様に、多光子蛍光顕微鏡法では、非線形吸収プロセスを利用して、励起の点拡がり関数の有効サイズを小さくすることができますが、この場合も、長い波長の励起光を使用しなければならないというデメリットがあるために、より小さく洗練された点拡がり関数の利点が相殺されます。結果として、従来型の広視野顕微鏡法よりも優れた、共焦点顕微鏡法と多光子顕微鏡法の利点は、劇的な分解能の改善というよりも、放出源から発生する背景シグナル(アウトフォーカス光)を焦点面から除去し低減させることになります。これによって、三次元のボリュームレンダリングイメージングで、明瞭な光学的断面を獲得することができます。

光学顕微鏡観察法には物理法則によって課せられるこのような解像限界がありますが、制約が一定の想定の下でのみ当てはまるという事実を表す、法則の「ぬけ穴」を利用することによって、これを克服することができます。これらの「ぬけ穴」を利用する技法は、超解像顕微鏡法として知られており、現在では、多くのメーカーが、さまざまなタイプの超解像顕微鏡を提供しています。

Contributing Authors

Joel S. Silfies and Stanley A. Schwartz - Nikon Instruments, Inc., 1300 Walt Whitman Road, Melville, New York, 11747.

Michael W. Davidson - National High Magnetic Field Laboratory, 1800 East Paul Dirac Dr., The Florida State University, Tallahassee, Florida, 32310.

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